2ntブログ
スポンサーサイト
-------- -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告 | top↑
生成り 6
2007-04-07 Sat 23:01

遺言公開の後、逃げ出すように纏めた荷物はそれほどの数も無く、きゃぁきゃぁと騒ぎながらでも片付けるのにそれほどの時はかかりませんでした。 最後に両親の写真をベットサイドに飾リ見つめていた陽菜は、視線を感じて鏡の方へと振り返りました。 澪はベランダの戸を閉めてそばにいます。 気のせいかと首を傾げて鏡を見詰める陽菜を、澪はさりげ無く部屋から連れ出したのです。


『私達の部屋は隣だから、何かあったらいつでも来てくれて良いから。 さぁ 陽菜ちゃん屋敷を案内するわね。 といってもほとんど使っていなくて閉めっきりなんだけどね。 それがすんだらお茶にしましょう。 』
『はい 』


元々は一つの部屋をベランダで続いたのまま、薄い壁で仕切っただけと言うことは内緒にして、ベット側の部屋のドアを指差し、2階から1階へと鍵のかかった扉を説明して、最後は薄暗い階段を下りると地下には不釣合いな大きな扉の前に出ました。


『ここがご主人様の仕事場。』 
『ここが?』
『そう 、呼ばれない限りは勝手に入っちゃダメよ。』


いくらでも日当たりの良いお部屋はあるのに、わざわざ地下室になんて、不思議に思いながら、台所に向かったのです。


『陽菜ちゃんの料理は?』
『いえ…ほとんどした事無いです…』
「あら、じゃあお掃除やお洗濯は?』
『それもあんまり… 』
『そう…』
『あっ あの、これから一生懸命覚えますから、お願いします』
『そうね、 まあ 陽菜ちゃんに出来ることをしてもらうから がんばってね』

別窓 | 生成り | コメント:0 | トラックバック:0 | top↑
生成り 5
2007-04-05 Thu 23:22

様々な表情を変える陽菜の頬にもう一度唇をつけた澪は立ち上がり、スーツケースの方へと向かいます。 離れた澪に急に肌寒さを感じた陽菜は、自分の躯を抱きしめじっと澪を見つめています。


『さぁ、荷物を片付けてお茶にしましょう。』
『はい…』
『あら、可愛いブラ、陽菜ちゃんにぴったりののピンクね』
『やん…見ないで』


勝手にスーツケースを開けて女の子らしいコットンの下着を一つ一つ鏡に見せ付けるように広げる澪に、陽菜は慌てて走りより、紅い顔で下着を取り返そうとします。 そんな陽菜を楽しそうに見下ろして、次々と下着を広げ、さりげなくサイズを確認していく澪に、陽菜はなかば抱きつき、その柔らかな胸の感触に、どきりとします。 思わず自分の未熟な躯を見下ろして、ため息をついてしまうのです。


『どうしたの? 陽菜ちゃん 怒った?』
『えっ? いいえ ただ澪さんに比べると私って子供だなぁって…』
『どうして…? 可愛いお胸じゃない …ほら』
『きゃぁ!!…止めてください』


別窓 | 生成り | コメント:2 | トラックバック:0 | top↑
生成り 4
2007-04-03 Tue 22:59

『どぉ、 片付いた?』
『あっ…』
『あら…具合でも悪いの?』
『いいえ…ちょっとぼんやりして…』
目まぐるしく過ぎた一日を思い出していた陽菜にいきなりドアが開いて澪が尋ねました。 ぼんやりとベットに腰かけていた足元に跪いて心配そうに見上げる澪に、小さく首を振って、立ち上がろうとした陽菜の膝を押さえて、澪が隣に座り肩を抱いて柔らかな黒髪を撫でます。 幼い頃に母を失った陽菜にはこんな風に大人の女性に抱かれたことなどありません。 柔らかな胸の感触に、甘い香りに母親がいたらこんな風に…そう思うと今まで堪えていた涙が一気に溢れしゃくりあげる陽菜を優しく抱きしめていた澪は妖しい微笑を浮かべ、反対側の鏡を見ていました。 
『大丈夫?…もう何も心配いらないんだから』
腕の中でしゃくりあげる陽菜の顔を両手で挟みこんで上向けると涙を舌で掬い取り、頬の涙の後を舌で舐めとります。 思いがけずに間近にある澪の顔に視界をふさがれ、驚く間もなく温かな唇が顔を掠めます。 顔中真っ赤にして喘ぐ陽菜に頬と頬をくっつけて鏡に見せ付けるようにした澪が
『なぁに?… 真っ赤になって 可愛い』 
『あっ… わっ 私…』
『んっ?…もしかしてキスしたこと無いの?』
『あっ ありません!!』
『あらぁ 貴重なファーストキッス貰っちゃおうかしら 』
『みっ 澪さぁぁん』

冗談とも本気ともつかない調子でまた両手で陽菜の頬を挟んでジッと見下ろす澪に、陽菜は赤くなったり青くなったり、目まぐるしく表情を変えます。 お嬢様学校と言われる幼稚園からの女子校でも、男性経験豊富な同級生もいますが、亡くなった父親は異性関係だけには厳しかったのです。 周りの友人も奥手な陽菜にいろいろ誘いをかけるのですが、元々人見知りなところもあり、今まで恋愛経験と言うものもないようなものだったのです。 逆に女子校の中では、同級生同士の恋愛と言う話も聞いた事があったものの、まさか今自分の身に降りかかってくるなんて信じられずに、また溢れそうになる涙に、笑いながら、顔を離し
『あははははっ うっ 嘘よ 冗談 …だから泣かないの』
『冗談…』
『くっくっくっ…可愛い…』
『ひおどぉい…』
『あら?…それとも本気の方が良い?』


もう一度見下ろす澪に、安心したような、少しがっかりしたような気がしてた陽菜は、澪の言葉に小さく躯を震わせました。

別窓 | 生成り | コメント:0 | トラックバック:0 | top↑
生成り 3
2007-04-02 Mon 00:55

倒産の一言に居なくなる人間はいるとは思ってはいたものの、あたふたと屋敷から走り去る車の音を聞きながら、顧問弁護士が小さくため息をついて、人々の逃げ出す様を呆然と見つめる陽菜の方を振り返り、
『見事と言おうか…何と言うか… 困りましたね』
『さて、貴方のこれからのことを決めなければいけないのですが……まぁ、こっちの方が都合がいいですかね。 』
最後の方は、後ろに控えた男にだけ聞こえるように小さな声で呟いて
『はい…あの 倒産て…』
心細そうに弁護士を見上げてるさまは、こういう事態に慣れているはずの弁護士さえ哀れに思うほど頼りなかったのです。


『まず会社ですが、後を引き受けてくださる方が現れまして、名前は変わりますが何とかなりそうです。 それで個人的な負債ですが、この家や別荘を処分してもいくらか残ります。 最後に陽菜様の事ですが、まだ未成年と言うことでどなたかに後見人になっていただこうと思ったのですが…後はあなたから話していただいた方がいいのでしょうね』
後ろに一人だけ残った見慣れない男性を振り返り、後はそちらが と言うように後ろに下がったのです。

弁護士の後ろから現れたのは今までの喧騒とは別世界のように壁際に佇んでいた30代後半の方でした。
『初めまして、風間と申します。 このたび、そちらの会社はこちらで面倒を見させていただくことになりました。 どなたか後見人を引き受ける方がいたらよかったのですが、もしもどなたもいらっしゃらないのなら、陽菜様とその負債を全て引き受けたいと申しております。 なんでも、私の主人が、昔 お父様のお世話になったそうで、今更ながら御恩返しをしたいということです。 いえ…何の関係も無く引き取られると言うのが気詰まりでしょうから、主人の話し相手にでもなっていただけたら、お給料を払うし、その中から借金も返しえてくれれば良いという話なのですが、いかがでしょう?』


いかがと言われても、今まで父親の庇護の元世間など知らない陽菜には、恩着せがましい言葉もその裏に隠された胡散臭さも気付くはずもありません。 世慣れているはずの弁護士汗、良いお話しと勧めるのですです。陽菜に抗うすべなど無く、その日のうちに、借金取りに捕まる前にとささやかな荷物をまとめ、必要な書類に言われるがままサインをして、車に乗せられたのです


 

別窓 | 生成り | コメント:0 | トラックバック:0 | top↑
生成り 2
2007-03-29 Thu 23:51

『陽菜ちゃん…心配しなくていいのよ。 私達がついてるからね』
『いやいや、ウチにくるんだよな。息子も陽菜ちゃんが来るのを楽しみにしてるんだよ』
「あら…私達のとことへ…』

喪服に身を包んだ市ノ瀬陽菜は、周りの親戚の声も耳に入らないのか、ただぼんやりと椅子に腰掛け、正面に飾られた父の写真を見つめているだけした。 
幼い頃に母を亡くし心寂しさはあるものの、優しい父隆文の惜しみない愛情に包まれ、何不自由の無い暮らしを送っていた陽菜に急に襲いかかった悪夢のような出来事は、まだ現実のこととは思えなかったのです。 陽菜の高校卒業と大学進学のお祝いのさなか、カナリアイエローのドレスに身を包み幸せに酔っていたその瞬間、急に胸を押さえ苦悶の表情を浮かべた隆文は救急車で病院へと運ばれ、そのまま帰らぬ人となってしまったのです。


最愛の父を失って混乱している陽菜は、弁護士や会社の役員に言われるまま葬儀、告別式をこなし、ただ操り人形のようにそこに居ただけです。 その間に今まで顔もその存在すら知らない自称親戚が陽菜の周りへと集まり、言葉巧みに保護を申し出ているのです。 陽菜は父の不在を悲しむ暇すら与えられず、何一つ自分で決めた事などないお嬢様生活から、様々な人々の思惑の渦へと放り込まれてしまったのです。


『えっ? 倒産…』
『無一文どころか借金まで…』
『ぁっ 私達用事を思い出して…』
『いやぁ、 力になりたいけれどウチも苦しくて…』

先ほどまで陽菜を取り巻いて居た人々が倒産の一言に、巻き添えを食うのはごめんだとばかりに潮が引くように、いっせいに一之瀬邸から逃げ出したのは、父隆文の四十九日の法要の席でした。 ワンマン経営で業績を上げていった一之瀬興産は、長引く景気の低迷による積み重なった負債と、その強引な手法に敵も多い事により、社長の急逝によって一気に傾いてしまったのです。 

別窓 | 生成り | コメント:0 | トラックバック:0 | top↑
BACK | 静寂の花 | NEXT

ブログ内検索

RSSフィード

最近のトラックバック