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生成り 2
2007-03-29 Thu 23:51

『陽菜ちゃん…心配しなくていいのよ。 私達がついてるからね』
『いやいや、ウチにくるんだよな。息子も陽菜ちゃんが来るのを楽しみにしてるんだよ』
「あら…私達のとことへ…』

喪服に身を包んだ市ノ瀬陽菜は、周りの親戚の声も耳に入らないのか、ただぼんやりと椅子に腰掛け、正面に飾られた父の写真を見つめているだけした。 
幼い頃に母を亡くし心寂しさはあるものの、優しい父隆文の惜しみない愛情に包まれ、何不自由の無い暮らしを送っていた陽菜に急に襲いかかった悪夢のような出来事は、まだ現実のこととは思えなかったのです。 陽菜の高校卒業と大学進学のお祝いのさなか、カナリアイエローのドレスに身を包み幸せに酔っていたその瞬間、急に胸を押さえ苦悶の表情を浮かべた隆文は救急車で病院へと運ばれ、そのまま帰らぬ人となってしまったのです。


最愛の父を失って混乱している陽菜は、弁護士や会社の役員に言われるまま葬儀、告別式をこなし、ただ操り人形のようにそこに居ただけです。 その間に今まで顔もその存在すら知らない自称親戚が陽菜の周りへと集まり、言葉巧みに保護を申し出ているのです。 陽菜は父の不在を悲しむ暇すら与えられず、何一つ自分で決めた事などないお嬢様生活から、様々な人々の思惑の渦へと放り込まれてしまったのです。


『えっ? 倒産…』
『無一文どころか借金まで…』
『ぁっ 私達用事を思い出して…』
『いやぁ、 力になりたいけれどウチも苦しくて…』

先ほどまで陽菜を取り巻いて居た人々が倒産の一言に、巻き添えを食うのはごめんだとばかりに潮が引くように、いっせいに一之瀬邸から逃げ出したのは、父隆文の四十九日の法要の席でした。 ワンマン経営で業績を上げていった一之瀬興産は、長引く景気の低迷による積み重なった負債と、その強引な手法に敵も多い事により、社長の急逝によって一気に傾いてしまったのです。 

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