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生成り 3
2007-04-02 Mon 00:55

倒産の一言に居なくなる人間はいるとは思ってはいたものの、あたふたと屋敷から走り去る車の音を聞きながら、顧問弁護士が小さくため息をついて、人々の逃げ出す様を呆然と見つめる陽菜の方を振り返り、
『見事と言おうか…何と言うか… 困りましたね』
『さて、貴方のこれからのことを決めなければいけないのですが……まぁ、こっちの方が都合がいいですかね。 』
最後の方は、後ろに控えた男にだけ聞こえるように小さな声で呟いて
『はい…あの 倒産て…』
心細そうに弁護士を見上げてるさまは、こういう事態に慣れているはずの弁護士さえ哀れに思うほど頼りなかったのです。


『まず会社ですが、後を引き受けてくださる方が現れまして、名前は変わりますが何とかなりそうです。 それで個人的な負債ですが、この家や別荘を処分してもいくらか残ります。 最後に陽菜様の事ですが、まだ未成年と言うことでどなたかに後見人になっていただこうと思ったのですが…後はあなたから話していただいた方がいいのでしょうね』
後ろに一人だけ残った見慣れない男性を振り返り、後はそちらが と言うように後ろに下がったのです。

弁護士の後ろから現れたのは今までの喧騒とは別世界のように壁際に佇んでいた30代後半の方でした。
『初めまして、風間と申します。 このたび、そちらの会社はこちらで面倒を見させていただくことになりました。 どなたか後見人を引き受ける方がいたらよかったのですが、もしもどなたもいらっしゃらないのなら、陽菜様とその負債を全て引き受けたいと申しております。 なんでも、私の主人が、昔 お父様のお世話になったそうで、今更ながら御恩返しをしたいということです。 いえ…何の関係も無く引き取られると言うのが気詰まりでしょうから、主人の話し相手にでもなっていただけたら、お給料を払うし、その中から借金も返しえてくれれば良いという話なのですが、いかがでしょう?』


いかがと言われても、今まで父親の庇護の元世間など知らない陽菜には、恩着せがましい言葉もその裏に隠された胡散臭さも気付くはずもありません。 世慣れているはずの弁護士汗、良いお話しと勧めるのですです。陽菜に抗うすべなど無く、その日のうちに、借金取りに捕まる前にとささやかな荷物をまとめ、必要な書類に言われるがままサインをして、車に乗せられたのです


 

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