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緋色 18
2007-03-11 Sun 23:33

パチッ、聞き慣れない木のはぜる音に眼を覚ました私は背に畳の感触を感じ薄暗い部屋に視線を巡らしました。 毛布に丁寧に包まれていた躯はいつもと違う筋肉の酷使のせいで痛み、顔をしかめながら私は無意識に明かりを求め寝返りをうつと、隣の部屋の囲炉裏端で作務衣姿のあの方がじっと怖い顔で何かを見つめています。 炎に照らされた真剣な横顔に、何か予感めいたものがあったのでしょうか、いきなり手にした物を振り上げて叩きつけようとした姿に、痛む躯も忘れて起き上がり走り寄りました。


『何をするの?』
『放せ! こんなもの何も意味がない!』
『何故?…こんなにすばらしいものを…?』
『理想の肌はこんなものじゃない! これこそ…』


叩きつけようとしたのは先ほど見せていただいた茶碗です。 振り上げた手から必死に奪い取り胸に抱き寄せた私に、そう仰って私の紅く染まった口付けの痕を痛いほどの視線で射ぬき、胸をきつく握り締めました。  あまりの痛みに器をぎゅっと抱きしめ抗う私と奪い取ろうとする彼はもつれ合い、板の上に倒れ込んでいました。 真剣に見下ろす貴方に胸を喘がせ必死に言葉を尽くす私はいつしか抱きすくめられ深い口付けを受けていたのです。

『ダメです …これを壊しては!』
『放せ、こんなもの』
『いいえ…これ以上のものを作れば良いだけでしょう?!』
『これ以上……の…?…』
『ええ、これが不満なら、新しいものを作ればいいの…不満があるからって壊してはこれを作ったときの貴方が可哀相。』
『これを作った時の…』
『そう…これが出来た時の喜びを思い出して!…そして新しい物を作って下さい。』
『出来るだろうか…?』


必死に言い募る私に縋る様な瞳を向ける彼が何だが頑是無い子供の様に思えて、器と一緒に胸に抱きこんでいました。 

『出来ます…こんなにすばらしい茶碗が作れたのだから…』
『もう一度…この肌を見せて欲しい…』

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