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闇色 4
2007-05-08 Tue 23:02

いつもなら何の抵抗も無く解ける組紐が、震える指のせいでしょうか、なかなかいう事をきいてはくれません。 本来一人で行う着替えを夫以外の男性の前で行わなければいけない躊躇いと羞恥に、今すぐ逃げたしたいという私の心に、八千草さんのお気が変わらないうちにと焦る心が重なり、私の指は一層震え強張りを増します。 うつむき、必死に指動かそうとする私は、八千草さんがついた小さな溜息に、びくりと躯を強張らせたのです。


「ふぅ…もう いいです…」
「まっ 待ってください」
「無理強いはしたくないと言ったでしょう。 嫌なら、そのまま帰りなさいと。」
「いっ 嫌だなんって… っ…」


思わず上げた顔にじっと見つめる八千草さんの顔がありました。 見捨てられてしまった… 私の心を襲った絶望感に何も考える事など出来ずに八千草さんの足元に跪き必死に膝に手をかけておりました。 そんな私を見下ろ問いかける声は少し厳しさを増しておりました。

「自分で脱ぐことは出来ないのですか?」
「…っ は い…」
「では、『脱がせて欲しい…』、その口から願いなさい。」
「そんな…」
「自分で脱ぐのは無理なのでしょう?」
「…は…い…」
「だったら、このまま帰るか」
「それは出来ません」
「ならば…私が脱がせるしかないのでは?」
「っ…」


男性の前で着替えるなんてはしたないことは出来そうにありません。 そして、このまま帰っても何の解決にもならないことは私が一番よく分かっております。 今は八千草さんのお情けに縋るしかない事も…。
それでも、夫でもない男性に着物を脱がせて欲しいなどとはしたない言葉を自分の口から言うことは出来ようはずがありません。 私の心は千々に乱れ、こんな選択を迫る八千草さんを恨みたくさえなりました。 次の拒絶の言葉を聞く前にはと焦った私は、はしたないお強請りの言葉を言うよりは、せめて己の手で帯までならと心を決めました。 そんな私の心をお見通しになったかのように、見下ろしていらっしゃった八千草さんは、私の手を握り一緒に立ち上がったのです。


「月子さん…?」


問いかける八千草さんに、私は意を決したかのように頷き、今度は震えのおさまった指で帯締めを解いたのです。


きゅっ… しゅっ…絹特有の軋みをあげて解かれ引き抜いた帯締めを纏めて私は八千草様に差し出したのです。
ぱさり…背中で錦が流れる音が私の耳に突き刺さりました。

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