『そんな… 子供じゃないのですから っぅ…っ…はっ はなして…くだっ…』
お仕置きと言う言葉の妖しさを消すように冗談めかした私を罰するかのように骨が折れるほどの強い力で手首を握り締める男性に、私は哀願するするしかなかったのです。 自分の罪深さに慄いていたわたくしを救ってくれたのは、別のお客様の到来を告げる友人の声でした。
『ここで待っていて。 …… やぁ、いらっしゃい 久しぶりだね。』
いらだたしげに私に囁き、念を押すようにもう一度きつく握り締めた手首を離して、彼は別人のような穏やかな声で華やかな輪へと戻られたのです。
男性の温もりが背から離れた瞬間、私はここから逃げ出すことしか考えられなかったのです。 右手に残る赤い指の痕が私の罪の証のようで、左手で隠すように握り締め、仕事仲間に囲まれた友人に用事を思い出したと言い訳するだけが精一杯でした。
待つほどもなく開いたエレベータの中に滑り込んだ私が閉じかけた扉に詰めていた息を吐き、ロビーのボタンに手を伸ばした瞬間、もう一度開いたドアの先には、あの方が立っていました。 慌てて閉ボタンに伸ばした私の手を先ほどと同じ強い力で握り、抗う間もなく後ろへと回し、私の唇を奪ったのです。 彼の後ろでエレベーターが静かに閉じました。
『あっ…』
『んっ …っ んんっ…やっ』
平日の午後、乗り降りする人が少ないとはいえ、いつ動き出すか、開くか分からないエレベーターの中、自由になる左手で押し返し、顔を背けようとする私に名残のように舌を絡めて、唇を離したのです。
『ひどい…なぜ…?』
『待っていろと言ったのに、帰ろうとした罰ですよ。』
顔を背けた私の耳朶を甘く噛んで囁いたあの方は手を離し、エレベータは静かに下降し始めたのです。
『あの壺がそれほど気に入ったのなら、僕の工房へ行きませんか? あれよりも貴女の気に入る物が有ると思いますよ。 あんなに人の居る所で触れられたら他の人の目もあるし、あそこなら好きなだけ触れていいから』
『行きます! … でも ご迷惑じゃ…』
あの壺に魅せられているのか、それともこの方のお造りになる器に惹かれているのか、焼き物の心得など無い私には分かりません。 その時の私は、あれほど心を捕らえた壺と同じものに触れられるかもしれない、そして、触れようとした私の無作法を許していただけた、その嬉しさに心弾ませていたのです。
いきなり唇を奪うような方と御一緒する事に確かに抵抗はありましたが、友人の話では工房には幾人かのお弟子さんがいらっしゃるはずですからこれ以上無体なことをなさるとは思えませんでした。 何よりも私はあの肌に触れてみたかったのです。
『んっ んんっぅぅ…』
あの肌を思い出して少しぼんやりしていた私は、さっきよりも深く唇を奪われてしまったのです。 さっきよりも強く何度も角度を変えてむさぼわれる様に吸い上げられ上気した頬を晒した私の耳朶を甘く噛んで、私のシャツのボタンを一つ外したのです。 私は突然の口付けに大きく喘ぐ胸元に咲いた紅い薔薇を、慌てて両手を挙げて隠しました。
『やっ 何をなさるの』
『お仕置きをするといっただろう。 ほぉっ… やはり、さっきのは見間違えではなかったな。 見て欲しかったんだろう、この背徳の色を…』
『ちっ 違います』
『違わないだろう…いつもこうして男を誘っているのか? 悪い子だ』
見られたはずがない、そう思い見上げたあの方の視線は操作盤の上の鏡を意味ありげに指していたのです。 まさか、見られていたなんて、私は羞恥に震え、掴んだシャツをきつく握り締めました。
小さく首を振るだけで精一杯の私を更に追い詰めるように、抗う手など何の障害にもならないかのように第三ボタンも外してしまったのです。 大きく寛げられた胸元からは豊かな胸が飛び出してきました。
『これは隠そうとした罰ですよ、素直にしていたら一つですんだのに。 それとも、もっとはずして欲しかったのかな?』
『ちっ 違い ま…す……』
『違う? こんなに尖らせているのに? いやらしい乳首だね』
『あうっ っあん… やっ 違うっ…』
あまりのお言葉に小刻みに震える私の胸の蕾を摘まみあげ、紅く染まった耳元で囁いたのです。 いくら否定しようと、この信じられないような状況と先ほどの罰するかの様な口付けに、いいえ あの強い力で手首を掴まれた時から私の蕾は艶やかな布を押し上げていたのです。